ライヴ感想:12月29日 オルケスタ・リブレとスガダイローとRONxII 「plays DUKE」年末スペシャル
アルバムも事前に買って、youtubeでも映像を観て期待を膨らませていた。そしてようやく生でライヴを観ることができた、待望の「プレイズ・デューク」。ゲストにピアノのスガダイローと、タップダンサーのRON×Ⅱ(ロンロン)を招いて、芳垣安洋のオルケスタ・リブレがデューク・エリントンを演奏するという企画。
会場は六本木にある新世界というライヴハウス。そういえば去年ケリー・ジョー・フェルプスのライヴをここで観たなーとか思いながら演奏が始まるのを待つ。
セットリストは以下。
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1.アイ・ガット・イット・バッド
2.キャラヴァン
3.ソフィストケイティッド・レディー
4.ザ・ムーチ
5.マネー・ジャングル
~休憩~
6.クレオール・ラヴ・コール
7.A列車で行こう
8.アフリカン・フラワー
9.コットン・テイル
10. ロッキン・イン・リズム
~アンコール~
11. ムード・インディゴ
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雑駁になるが、以下、感想を書きたい。
1.アイ・ガット・イット・バッド
デューク・エリントンのバラード代表作のひとつ。この曲だけは、RONxIIとスガダイローなしのオルケスタ・リブレのみでの演奏。エリントン楽団では、ジョニー・ホッジズが妖艶に吹くサビがグーっと染みるこの楽曲。リブレ・ヴァージョンはがらっと雰囲気を変えたアレンジ。めちゃくちゃ高速かつグルーヴィなのだ。中盤には長い尺での青木タイセイによるピアニカ・ソロもあったりする。しかし複雑なリズムと構成の中でもこの曲の肝である染みるメロディーはちゃんと浮かびあがってくるという、難易度の高そうな技でこちらを魅了する。今回発売されたオルケスタ・リブレのアルバムの中で最も意外性のあるアレンジで、個人的には最も好きなトラックであっただけに、冒頭からこれを聴けてとてもテンションが上がった。
2.キャラヴァン
トロンボーンのファン・ティゾールによる楽曲。エキゾチックな雰囲気でラテン音楽の影響も言及される曲である。ここからスガとRON×Ⅱが参加。初めて目の前で見るプロのタップダンスはものすごい迫力があり、まずそれに圧倒される。芳垣の鋭敏なドラム、怒涛の響きを繰り出す楽団の個別の一音一音にもRON×Ⅱは細やかに反応しタップをする。月並みではあるが、映画「コットン・クラブ」のグレゴリー・ハインズを想起してしまう。エリントン楽団の「キャラヴァン」初録音は1936年である。エリントン楽団がハーレムのコットン・クラブ専属だった期間からはズレているが、「コットン・クラブでこんな感じだったのか?」と妄想が膨らみ、興奮する。
3.ソフィストケイティッド・レディー、9.コットン・テイル
今日のライヴ演目ではこの2曲がアルバム未収録の楽曲。「ソフィストケイテッド~」はエリントンの大名作バラード。バリトンサックスのハリー・カーネイのソロがフューチャーされたアレンジが有名かと思われるが、ここでリブレがソリストとしてフューチャーしたのは、ベースの鈴木正人。つまり、1940年のジミー・ブラントンとエリントンのデュオをモチーフにしたと思われるアレンジ。エリントン愛好家としてはそれだけで興奮する。こんな感じで、芳垣さんとオルケスタ・リブレのエリントン音楽へのこだわりは、オタクも喜ばせる念の入ったものである。リブレにはまだまだエリントン楽曲のストックはあるのだろうか。聴きたい。「コットン・テイル」の超高速なリフに対応するRON×Ⅱの能力の高さに驚いた。
4.ザ・ムーチ、6.クレオール・ラヴ・コール
両曲とも1927~1928年というエリントン・キャリアの中でも最初期に書かれた曲。「物憂さ」というエリントン音楽の重要な特徴がよくあらわれた代表曲。「ムーチ」「クレオール・ラヴ・コール」そして「黒と茶の幻想」は、エリントン楽団ではメドレーで3曲合わせて一つの楽曲みたいな扱いで晩年まで演奏されていた。エリントンのブルースに対する認識が感じ取れるなと思ってこれらをいつも聴いている。リブレでは、ノイジーなエレクトリック・ギターなどが入り表面的には一瞬違和感があるが、実際エリントンが意識していた「物憂い雰囲気」を忠実に表しているのではないかと思う。エリントン楽団の音の重要要素プランジャー・ミュートも交えながら吹く渡辺隆雄のトランペットが素晴らしくかっこよかった。
5.マネー・ジャングル、8.アフリカン・フラワー
ミンガス、ローチ、エリントンの狂気のピアノトリオということでジャズファンが愛する名盤「マネー・ジャングル」からの楽曲。アルバムが人気なので、ジャズファン内では有名度は高いかもしれないが、基本は2曲ともアルバム「マネー・ジャングル」のための曲だった。実際、エリントン・オーケストラでの演奏は残っていない。オルケスタ・リブレがこれらをビッグ・コンボ用にアレンジして演奏しているということは、エリントンもストレイホーンも手をつけなかった領域に踏み込んでいるのか!と、またオタクの心がくすぐられ興奮した。「マネー・ジャングル」演奏前に「スガダイローがエリントンを完コピします」と芳垣が言ったが、エリントンの壊れ方というか意図的な音の壊し方を踏襲しつつ、スガダイローらしい派手さもあり、大興奮した。「アフリカン・フラワー」の暗く美しいピアノの響きも染みた。
7.A列車で行こう
曲の冒頭、パーカッションの岡部洋一とRON×Ⅱによる打楽器VSタップのバトル。そこからダイローのソロが始まり、お馴染みのテーマに突入。デューク・エリントンと言えばこの曲ということで、場内も盛り上がる。確かにこれは最高に楽しい。よく聴くと、ハーモニーの重ね方とかけっこう細かくアレンジされていてそこを聴くとそれがまた楽しい。たとえばテューバなどエリントン楽団には存在しなかった楽器の響かせ方など工夫されてるなと興味を持って聴いた。
10.ロッキン・イン・リズム
超高速の「コットン・テイル」の後は、バンドはこの曲で昇り詰める。文句なしに楽しい。後半スガダイローが「ヘイ・ジュード」を煽るように弾き、会場がまた沸く。そこからブレイクの瞬間のエリントン流のピアノの音の外し方がまた素晴らしくかっこよく盛り上がる。
11.ムード・インディゴ
デューク・エリントンが生涯で最も多く演奏したと言われる曲。エリントン・ミュージックの最大の魅力である独特なハーモニーをこの「ムード・インディゴ」は最も体現していたのかなと、この日のリブレの演奏を聴きながら改めて思った。
~全体の感想~
RON×Ⅱがいることで、エンターテイメントとしての楽しさ、リズムの楽しさが非常に強まっていることが感じられた。そして僕のようなちょっとオタクっぽいというかマニアっぽくこだわりたいという人間も満足させるアレンジの細やかさも、とても満足できた。
芳垣さんとオルケスタ・リブレの皆さんには、来年もどんどんエリントンをやってほしい。切に願います。